コーポレート・ガバナンス・コードを改定へ

2018年3月に金融庁がコーポレートガバナンスコードの改定案を発表した。コーポレートガバナンスコードは2015年に導入されたが、その主な改定案として、①政策保有株についての保有の適否を検証すること、②取締役会での社外取締役の一段の活用を求めること、③経営戦略面では事業配分の見直しや設備投資などの理由を明示すること、等が指摘されている。

コーポレートガバナンスコードが改定され、企業が経営の効率性と透明性をより高めることは歓迎されるべきであるが、大事な点は他にもある。それは、経営者の意識改革である。日本の上場企業には、問題を先送りし、リスク対処が遅れるという、いわば良からぬ風習が根強く残っており、そのことも作用してか収益性が国際的に見て低いという議論を度々耳にする。

コーポレートガバナンスコードが3年前に施行され、「攻めのガバナンス」のスローガンの下、取締役会を中心にリスクテークできる環境整備の必要性が謳われ、その土壌はできつつあるかもしれないが、実際に経営戦略を立案し決断するのは経営者である。経営者の意識改革は極めて重要な要素である。今回のコーポレートガバナンスコードの改定により、経営者には事業の選択と集中を含めた明確な意思決定が求められるというのがメッセージだ。(千)

事業売却という成長戦略

M&Aを活用した成長戦略と聞けば、通常は企業買収や事業買収といった「買い」をイメージされる方が多いかと思う。しかし、これからの時代は非中核事業や、利益が出ていても将来性のない事業については、売却という選択肢も成長戦略の一環として考える必要がある。戦後の高度経済成長の時代が終わり、アジアを含めた海外企業との大競争時代を迎えたからだ。

具体的な動きも見られる。三菱ケミカルHDの越智社長は2020年をめどに売上高で累計3000億円分の事業について撤退や売却を視野に入れて事業の再構築を検討し、黒字はもちろん、営業利益率などが目標値を超えていてもグループの成長に必要ないと判断すれば「再構築の対象となりうる」と話している(2017年11月29日 日経産業新聞)。事実、2010年から2016年までにM&Aで4000億円の事業を取り込む一方で、4500億円の事業を放出しているとのことだ。

 また、日立製作所は2017年1月13日に日立工機の全保有株式をアメリカ投資会社のKKRに売却すると発表した。インフラや情報通信などの社会イノベーション事業に経営資源を集中させる方針を掲げている中で、非中核となりうる事業を温存する理屈がないとの考えから実行に移した成長戦略型の事業売却の一例である。

海外では、フィリップスが稼ぎ頭だった半導体やテレビ事業から撤退、ヘルスケアなどに集中投資する戦略で業績が拡大基調に転じるなど具体的な成功事例が多い。

過去に多角化を進めた日本の上場企業は、強みを生かした成長戦略に基づく踏み込んだ事業の選択と集中を一刻も早く完了させることで、海外企業との競争に打ち勝っていかなくてはならず、その意味でもこうした動きが活発になることを期待したい。(千)

PMI(M&A後の統合作業)の重要性

M&Aを行う上で最も重要な要素の一つがPMIと言われている。買収した後に人材(技術やノウハウ)の交流やシステムの統合、販売ネットワークの相互活用等が機能しなければそのM&Aは失敗だとみなされよう。

M&Aを積極的に行う日本電産の永守会長は直接、現場との対話を通じて、士気を高めることが重要なカギだと話している(2017年8月5日付け日経新聞)。

一方、コベルコ建機と旧コベルコクレーンが2016年4月に統合したケースでは、社風や仕事のやり方の違いが特に大きかった開発・生産部門の統合を図るために、両社から若手・中堅社員を選抜してチームを結成。議論を重ねながら、有効なマーケティング制度や士気を高めるための人事制度を取り入れたという具体例もある(2017年6月19日付け日経産業新聞)。

破綻した米ウエスチングハウスの再建を主導する米コンサルティング会社、アリックス・パートナーズのサイモン・フリークリーCEOによると、M&Aの成否を握るカギは「目的の明確化、投資先の緻密な資産・負債の査定、買収後のPMI」であり、特に重要なのが買収先のガバナンスを効かせることだとしており、そのためのPMIが非常に重要だと指摘している(2017年6月2日付け日経新聞)。

ただ、私見ではあるが、PMIと同じように重要なポイントがあると痛感している。

それは、M&Aの交渉段階で対象会社の内容をよく知る売り手と買い手との間で、買収後のシナジーの出し方を含めた経営方針について議論を重ね、コンセンサスや買い手としての目指すシナリオをM&Aの実行前に得ておくことだと考えている。

この段階でコンセンサス・シナリオが得られなければ、M&Aの検討を終了させれば良いし、コンセンサス・シナリオが得られるのであれば、M&Aの実行後にスムーズなPMIに移行できるのではないかと考えている。

M&Aの検討機会があった場合には、この点を思い出していただきたい。(千)

 

急がれる業界再編

世界的に業界再編が進んでいるが、日本企業については積極的に業界再編を主導していく必要に迫られている。中国の中国化工集団(ケムチャイナ)による農薬最大手スイス・シンジェンダの買収は成立し、米ダウ・ケミカルと米デュポンは世界首位を目指して統合手続きを進めている。

一方、国内に目を向けると三菱ケミカル、住友化学、旭化成、三井化学の化学4社と国立研究開発法人の物質・材料研究機構が6月19日に新素材の事業化を目指す共同研究を始めると発表。

同じ業界でしのぎを削ってきた4社が団結することで、より素早く、高性能な新素材を生み出せるとみているが、グローバルな視点でみると、化学産業や素材産業は欧米や中国の企業を中心に買収額が1兆円を超える巨大再編が相次ぎ、このまま日本企業が重複する領域の研究開発を個別に進めても、競争力を維持するのは難しいとの見方がある。

近年の日本企業による大型再編は、鉄鋼とアルミ業界で起こった。鉄鋼では2012年に新日本製鉄と住友金属工業が、アルミでは2013年に古河スカイと住友軽金属工業がそれぞれ統合した。

株式市場ではM&Aを実施した企業の銘柄を選別する動きも出てきている、評価を受けているのは同じ業界内の再編に積極的に動いた企業としてアサヒグループHDや日本電産が注目された。

アサヒグループHDは2016年12月に英ビール大手の東欧5カ国のビール事業を買収すると発表してから2017年6月13日の終値までに株価が3割近く上昇した。ほかにも、昨年10月に米企業保険大手の買収を発表したSOMPOホールディングスは13日終値までに4割上昇した(出所:日経新聞)。

それぞれの企業には戦略があるため、一概には言えない部分もあるが、上場企業はグローバル競争に打ち勝つためにも業界再編の必要性が増してくるものと思われる。(千)

東芝問題

巨大企業が解体の危機に瀕している。

経済界に様々な話題を振りまいている東芝は現在瀬戸際に立たされているが、既に東芝テックの売却意向も表明され、着実にグループ解体への道を辿っていると思われる。影で不正を行った企業は必ず陽の目を見る事となり、解体への道を辿ることは歴史が示すところである。不正会計の温床となったアメリカの会計事務所アーサー・アンダーセンは解体されたのはほんの一例にすぎない。

東芝にも事業構造を変えることの重要性は十分に認識していたと思う。それは、2000年3月期の連結決算導入を見越して、1997年に東芝の西室泰三当時社長が密かに「関連会社も含めて事業ポートフォリオを見直し、何が必要で何が必要ではないか見極めてほしい」と各事業部に指示を出したことだ。業績が急降下する中、事業の選択と集中しか生き残りの道はないと踏んだからである。※1998年日経テレコン 巨大企業 解体

しかし、20年の歳月が経った今、東芝が直面しているのは解体の危機だ。業績の急降下ではなく巨大な債務超過による企業の存続そのものが脅かされている。残された時間は限りなく少ない。保守的な考えは捨て迅速な行動を実行していかなければ巨大企業の解体は現実のものとなるだろう。(千)

不透明な世界経済とグルーバル競争を勝ち抜くための業界再編

 昨今の経済状況は非常に不透明で且つ様々なリスク要因も孕んでいる。今年1月20日に就任予定のトランプ大統領誕生後の世界経済の行方も然りであろう。また、設備能力の過剰と過当競争に直面する日本企業は少なくはない。様々な業界で再編が行われそしてその機運も高まっている。日本企業は国内経済のシュリンクやグローバル競争をにらんだ再編を早期に検討する必要がある。

 2016年特に再編の波が押し寄せたのは海運業界であろう。日本郵船と商船三井、川崎汽船の大手3社がコンテナ船事業を統合すると発表し2018年4月から共同出資会社にて事業を始める。※2016年11月1日 日経テレコン 海運

世界経済の鈍化や資源安で需要が低迷する一方、コンテナ船の過剰生産により運賃は歴史的な低水準にある。企業が地産地消を進めた事も貿易量の減少に繋がり構造的な問題を抱えるようになってしまった。逆風下のグローバル競争を勝ち抜く為に避けて通れない道が3社統合だったといえる。

 2017年のトランプ大統領誕生後にはアメリカ国内での再編の機運が更に高まる可能性がある。米携帯4位のスプリントによる同3位のTモバイルUSの買収を断念させた米連邦通信委員会(FOC)のメンバー選びを政権移行チームにトランプ次期大統領が指示、新委員長が誕生しこれまでとは違う業界の流れが起きるかもしれない。ソフトバンクの孫正義社長が2016年12月7日にトランプ次期大統領と会談したのはその布石ではないかとも言われている。

再編機運で盛り上がりを見せているのは通信業界だけではなく、米医療保険業界でも3位のエトナと4位のヒューマナの統合観測により株価上昇という形で盛り上がりを見せている。

 このような再編により競争力の拡大をスピーディな形で展開していく米企業に対して、残念なのが日本の石油大手同士の合併・統合の機運を削ぐ創業家の存在である。企業風土の違いや創業家としての考え、様々な思いから反対する気持ちも理解はできるが、会社の事を創業家として考え、長期的に真に会社を永続させたいと願うのであれば英断も必要である。

国内市場の縮小やグローバルメジャーに対抗していく為には2017年4月に統合予定のJXホールディングスと東燃ゼネラルのようにスピーディな意思決定と決断が必要である。

日立製作所を再生させた川村隆前会長は「業績が悪くなってから再編しても効き目は薄い。余裕のあるうちに先を見据えて手を打つのが重要」と指摘する。石油大手の統合難航の話だけではなく日本国内では同様の事例は多いと思われる。再編機運の高まりだけではなく実行に移す事が最も重要である。(千)

高額の買収価額の背景にあるもの

 

1980年代後半バブル期の日本企業による海外M&Aの高値づかみが頻発していたのは皆様覚えているだろうか。

当時は日本企業にノウハウも情報も乏しく、情報を持っていた仲介者も限られていた為に同じ仲介者が売却シナリオを描く事も多々あったとされる。

その代表例がソニーの米コロンビア映画(89年)とパナソニックの米MCA(90年)のM&Aだ。

ソニーは81%、パナソニックは54%のプレミアムを支払い上記両社を買収したが、パナソニックは5年後にカナダのSeagram社に株式の80%を売却し、ソニーも現在でこそソニーピクチャーズとして稼ぎ頭に成長したが、一時は赤字減損に苦しんだ時期もあった。

一方、2016年1月12日の日本経済新聞によると、最近3年の日本企業がM&Aで支払ったプレミアムは平均31%で、バブル期の42%から大きく減少した。ノウハウ、情報が積み上がってきている裏付けと言える。

しかし、M&A巧者で様々なノウハウ、情報がある大企業においても多額のプレミアムの支払いを厭わない企業がある。

過去に苦い経験のある日本企業がそこまでリスクを冒して大型M&Aを仕掛ける背景は何だろうか、その背景を探ってみた。

JT:JTは2015年に米たばこ大手レイノルズ・アメリカが手掛けるブランド「ナチュナル・アメリカン・スピリット」の米国外事業を約6000億円で買収。対象事業の2014年売上高は約176億円、税引き前純利益は21億円からすると、高値づかみを指摘する声もあるが、JTは、その理由をアメリカンスピリッツの圧倒的な成長性にあると説明している。

高品質の天然葉タバコのみを使用し、オーガニック栽培などにも取組む独自性が受け、2014年国内販売本数は約15億本と3年間で2.5倍になった。(この間国内総需要は1割低下)

またアメリカンスピリッツが高価格帯且つ若い世代に支持されている点もあり、JTの足りないピースを補う事ができる点が大胆なM&Aに繋がったと言われている。

このように必ずしも上場企業のM&Aにおける高値づかみが万人に理解されるとは限らないが、欧米やアジアで買収を続け世界一の空調メーカーとなったダイキン工業の井上礼之会長の「確固たる地位を持続するには自らが絶壁に立つ」との言葉にあるように、強い意識を持ち続けることが競争に勝ち残る企業とそうではない企業の重要な岐路となるのではないかと感じる。(千)

後継者難とM&A

日本経済を支える中小企業の消滅の危機は現実のものとなるかもしれない。経営者の平均年齢は2015年に66歳となった。事業承継やM&Aによる企業の譲渡が満足のいく形で円滑に行われなければ日本経済の未来は暗いと言わざるをえない。会社を売る事は「身売り・従業員への裏切りだ」などと考える経営者は少なくないはずだ。しかし高齢となって気力・体力なども衰え、会社の成長の為の積極的な行動を起こせずにいれば、いずれは廃業や雇用喪失といった社会的損失にも繋がる可能性があり、それこそが「本当の意味での従業員に対する裏切り」となる。そのような不測の事態を引き起こさない為にも、早目に事業承継やM&Aを検討することがその企業や従業員にとっての「幸せ」や「成長」などを繋がる。その事例を以下に挙げてみる。

(1)ある企業Aのオーナーは株式譲渡をした後、従業員として働いている。これまで経営者として常に行ってきた売上、手形や入金、契約などの業務からくる不安やプレッシャーから解放されのびのびと仕事をするようになったと報告されている。

(2)ある企業Bの場合では共同仕入れを増やす事で原価を下げる事ができ、外注していた物流なども買収企業の物流網を活用、効率化とコスト低減を実現し被買収企業の従業員の処遇も改善し高いモチベーションが生まれ社員にとっても良し、企業にとっても良しのM&Aと報告されている

(3)後継者のいない企業Cは大手企業に株式譲渡を実行、その後は事業規模の拡大により引き合いが増え社員は新たな仕事に触れる機会が増え成長を実感しているとの事。

2016年6月6日の日経新聞によると、M&Aを含め、経営者が変わった企業の利益率は高くなる傾向がある。07~08年度に経営者が交代した企業の14年度の経常利益率は1.88ポイント上昇し5.5%、これに対して、交代しなかった企業は3.3%と1.16ポイントの改善にとどまったとの調査結果もある。

最近では頻繁に事業承継に関する話題が取り上げられている。以上の実例をご覧になっていただき少しでもM&Aや事業承継に対する理解を深めていただければ幸いである。

株安とM&A

2016年明けからの世界的な株安、原油安、新興国の景気後退によって、市場が乱高下あるいは日本経済の停滞リスクが懸念されている。そのような背景から企業がさらなる投資を躊躇する実情も垣間見て取れる。しかし全く逆の視点から物事を見ると、リスクのある状況だからこそチャンスを掴もうとしている産業界のリーダー達もいる。

日本電産は2016年1月7日に2017年3月期の設備投資額を過去最高の1200億円にすると発表。永守社長は「最近、株安や円高が進んでいるのは会社を買うチャンス」と語り、国内の電機産業などのM&Aに強い意欲を示した。

また、2016年株主総会にてアップルCEOのクック氏は株安環境を生かしM&Aを積極的に仕掛けていく方針を打ち出した。

さらに、三菱UFJ銀行はフィリピン大手銀行に1000億円程度を出資し、20%の株式を握る。邦銀は国内低金利を背景に2008年の金融危機以降も海外融資を急拡大させてきたが、資源安や新興国経済の変調を受けて戦略の転換を迫られつつある。株安によってM&Aを活用した事業戦略を進めやすい環境が生まれている事もあり、融資から投資に海外戦略の軸を移しつつある。

産業界の中心にいるリーダー達は逆境下の中でこそ成長の種を蒔く。まさにこれからの企業に求められているのはリスクに萎縮するのではなく、企業価値を高めるための正確な目利きとアグレッシブな行動だと考えられている。

コーポレート・ガバナンス・コードの効力

昨年6月から導入された上場会社に対するコーポレート・ガバナンス・コードの基本的な考えは、経営効率性、透明性を高め、企業価値を最大化する事が背景にある。具体的な事例としては、①東海カーボンが持合株式を中心に9銘柄を売却し、58億円の売却益を特別利益に計上、売却で得た資金は有利子負債の圧縮やM&Aによる成長投資に充てる方針と発表したこと、②大林組が東京証券取引所に提出したコーポレートガバナンス報告書の中で「保有意義が薄れた株式は売却する」と記載し、持合株式の解消を進める方針を明らかにしたこと、③アパレル大手のオンワードホールディングスが投資有価証券売却益22億円を特別利益に計上すると発表し、持合株式3銘柄を売却、保有資産を圧縮し、資本効率の向上につなげると発表したこと、などがあげられる。オンワードの吉沢正明専務は「コーポレートガバナンス・コードに基づいて、保有資産の見直しを進めている」と説明している。

このようにコーポレート・ガバナンス・コードを意識した取組みを行う企業がある一方で、必要性などについて理解はしているものの、事業への思い入れやそれが身売りと思い込み、実行に移せていない企業も未だに存在しているのも事実である。

しかしながら、コーポレート・ガバナンス・コード導入から半年が経ち、金融庁が11月24日に開いた企業統治に関する有識者会合において、投資家の意見をまとめているフィデリティ投信の三瓶裕喜氏が「企業同士が買収防衛の為に株を持ち合っている。企業にも持合株式を削減するという方針を表明してほしい」と発言、多くの委員が賛意を示したことも注目に値する。

日本の上場企業において、このような意識の変化が見られる中で、ただ単に持合株式の解消だけではなく、保有している子会社株式を含む資産が企業価値の形成にどれだけ貢献しているのかという観点で経営を推し進め、この方針や過程を株主に説明しなくてはならない時代になっていることに上場会社の経営陣は気がつくべきである。(千)