個人型M&Aが増加傾向

 現在、インターネットによるM&Aマッチングサイトの普及により、譲渡価格が1000万円以下の個人型M&Aが盛り上がりを見せている。個人型M&Aが増えている背景には、①経営者の高齢化による承継ニーズの増加、②買い手が個人となる事例が増加し、ブームとなりつつあること、などが挙げられている。今後、個人型M&Aは新たな起業の形として増加していくものと思われる。実際に中小企業庁によると、仲介大手による中小企業M&Aの成約件数は2017年に526件と2012年の約3.4倍の水準となった。

 デメリット・要注意事項としては、従業員が新しいオーナーを受け入れない可能性や、簿外債務の発覚、買収金額以上に資金が必要になるケースが発生し、事前に想定した経営ができない可能性もある。特に、簿外債務の調査や従業員のケアに関してはしっかりと行う必要がある。

 ただ、すでに事業が行われているため、取引先や顧客をそのまま引き継ぐ事ができ、設備や人材などを一から揃える必要も無ければ、必要な許認可がすでにあるため、即、経営できる点はメリットである。大事なのは例えば500万円で買える会社を探すのではなく、500万円で買う価値のある会社を探す事。そして買収金額以上に更に企業価値を高めていけるかという構想も持ち合わせておく必要がある。

 今後ますますデジタル化が進むと思われる日本において、個人型M&Aが大廃業時代の救世主となりうる可能性があるため、マッチングサイトを活用した動きは今後も注目されよう。(千)

中小企業の再編の必要性

中小企業の経営環境が厳しさを増している。後継者不足に加え、コロナウィルスの影響も深刻だ。また、中小企業は生産性が低いとも言われている。日本の生産性は世界20位台で、主要先進国で最も低い。日本の企業の99.7%が中小企業なので、国全体の生産性が低いという事は中小企業の生産性が低いという事だ。

今後、中小企業数を維持したまま、生産年齢人口が2060年までに現在よりも4割減った場合、一社あたりの労働者数は一段と減り、それが更なる生産性の低下を招く事になる。人口減少が急速に進む中で、GDPを維持するには一人当たりのGDPを上げるしかなく、生産性を上げる以外、道はない。そのためには規模の経済を活かす再編・統合が有効なのだ。

 コロナウィルスの影響で中小企業は目下、存亡の危機にある。短期的には支援策を設けるにしても、日本の将来を見据えれば中小企業改革は待ったなしだ。(千)

パンデミックによるM&A遅延例

平時にこそ、迅速に事業ポートフォリオを最適化する行動力が必要だ。昨今のような経済停滞に伴っての株価の下落は再編の好機とも言われる事はあるが、実態は必ずしもそうではない。

日本では神戸製鋼所が子会社株式会社の一部をファンドに2020年3月31日に売却する予定であったが、ファンドからの申し出により延期になった。

アメリカにおいてもメディア大手のバイアコムCBSも傘下の出版事業サイモン&シュスターの35億ドル規模の売却計画を中断した。また、通信大手AT&Tも傘下であるスポーツ中継地方局の売却を棚上げした。理由としてはパンデミックによるスポーツ中継視聴率や広告収入が下落している事が要因と見られている。

株価下落によってアメリカ事例においては当初予想されていた売却金額に満たない為に中断をし、日本事例においてはファンドが買収価格が下がる事を見込んで延期を申し出したと推察する。

 日本企業において特にM&A案件については慎重姿勢になる傾向があるが、上記の事例を鑑みると平時の際にノンコア事業の売却という正しい事をしっかりと行う行動力が問われている。(千)

技術に溺れずスピード経営を重視しろ

かつては半導体や液晶など日本のお家芸とされた分野で世界に技術力を知らしめて業界を席巻したパナソニックが2019年11月に液晶パネル生産から撤退、半導体事業では11月28日に台湾メーカーへの売却を発表した。

新聞報道によると、売却を発表した席で半導体事業を担当する北折常務は「AV機器が沈んでいく中、車載向けなどにかじを切ったが、スピード感が足りなかった」と反省の弁を述べた。売却額は約270億円、社内では「思ったより安かった」や、様々な製品の基盤となる半導体事業を売却することで「技術力の低下を懸念」などの声も一部あったようだ。

日本企業の弱点であるスピード感の無さを改善せず、技術力神話に溺れていては結局のところ何も変わる事はできないだろう。

「技術に溺れずに顧客と地域を大事にする」この言葉は中国PC大手レノボの創業者である柳氏の言葉である。技術は製造業の基本であるが、市場や顧客のニーズが変化する中で、日本企業にはスピード感のある経営の推進が求められている。(千)

日立製作所の事業の選択と集中

日立製作所は現在の上場企業の中で最も選択と集中を推進し、攻めの経営を推し進めている企業の一社である。 日立製作所はヘルスケア部門の画像診断機器事業を売却する方針である。日立のヘルスケア部門の売上高は子会社も含めると約3600億円で画像診断機器は約4割も占めている。※2019年8月23日 日経新聞出所

更にヘルスケア分野といえば今後、少子高齢化を本格的に迎える日本社会において成長産業と位置づけられているにも拘らずだ。

何故なのか。日立製作所は徹底して収益重視の選択と集中を行っている。日立製作所は22年3月期に営業利益率10%超の目標を掲げているが、画像診断機器などのヘルスケア部門の19年3月期の営業利益率は2.4%であった。低収益事業の選別と対処が課題となっており、成長産業と言えども日立製作所は聖域を設けず徹底して選択と集中を推進していると言える。日立製作所のような徹底して実行に移せる決断が上場企業には求められている。(千)

 

人員確保のためにM&Aを検討

人手不足の対策としてM&Aに取り組む企業が増えている。人口減等の構造的な問題を抱える日本の企業にとってM&Aは重要な戦略になると確信している。

セントラル警備保障の沢本尚志社長は「五輪後や人手不足を想定すると、“従来型の経営”では行き詰まる」と危機感を持っており、同業他社のM&Aなどを通じ、サービスと技術の両面の底上げを対応策として考えている(2019年4月23日 日経産業新聞)。

一方、保育サービス大手のポピンズホールディングは、パーソナルホールディング傘下の同業を買収すると発表した。売却の理由は、待遇改善で採用拡大を目指したが十分な保育士確保ができず、自前成長の余地は限られると判断したことが背景にある(2019年3月7日日経新聞 )。ポピンズホールディングの中村紀子会長は常々「人手不足が一番の問題」と指摘しているように、このような労働集約型の産業については今後も同様の理由からM&A、業界再編が活発になると思われる。(千)

 

有価証券報告書の更なる充実

上場企業にとって、経営における戦略とリスクの明確化が重要になってきている。2018年の金融審議会の報告を踏まえて内閣府令が改正され、有価証券報告書への記載適用は2020年3月期と定められた。具体的には経営方針や戦略、リスク情報を詳しく記載し、さらに市場環境や経営の優先課題の認識なども文章で明記することになる。企業価値の向上を目指す一環であり、企業には戦略に基づいた本業への注力や効率化経営、更には事業再編なども期待したい。

しかし本質な問題もある。いくら有価証券報告書に立派な戦略・課題認識を記述しても、外部向けのリップサービスのようなものとなれば、それは本末転倒である。それぞれの企業には様々な事情はあったとしても、長い目で見た時に、コア事業とノンコア事業の選別や、ノンコア事業の必要性を分析議論することに時間を掛けていては、本来注力すべき事業に対しての投資が遅れたり、ライバルに遅れをとることによって企業価値の毀損にも繋がり兼ねない。日本の上場企業において経営判断のスピードアップは優先課題の1つであろう。

東京海上HDが2018年10月31日に1700億円で売却すると発表したトウキョウ・ミレニアム・リーという子会社は、2000年に設立した再保険販売の子会社で累計1330億円の純利益をあげ、親会社の連結業績にも貢献してきたが、近年の異常気象リスクの増大や収益性の観点で売却を決断した。永野毅社長は先代社長が築いた会社だけに悩んだが「時代の変化に適応するには勇気をもって事業を入れ替えないといけない」と話している。(2018年11月1日 日経新聞)(千)

2018年M&Aの概況

企業買収は2018年も積極的に行われ、1月~9月のM&A金額は全世界で約370兆円と前年同期より39%増え、同期間としては過去最高となった。

2018年のM&A概況とすれば、案件の大型化と国際化が挙げられる。武田薬品工業によるアイルランド製薬大手シャイアーの買収金額は約6兆8,000億円と2018年では世界で最高額となった。

100億ドルを超える案件は全世界で40件と7割強増え、国をまたぐ案件合計額は1兆3,580億ドルと6割増えM&Aの大型化と国際化が進んでいる。

日本企業においても世界のM&A市場で存在感を強めており、2018年1月~6月の海外企業をターゲットにしたM&Aは約12兆7000億円と過去最高を記録した。

2017年度末で上場企業の手元資金は約120兆円もあり、カネ余りが日本企業の大型M&Aを後押しする面もあった。

しかし高値掴みには気を付けなければならない。過去には日本郵船が豪物流大手トール・ホールディングスの買収で結果的に4,000億円の損失を計上し、東芝も米原子力大手ウエスチングハウスのM&A失敗により6,000億円超の損失を計上した。

日本企業は海外M&Aの際に高値での買収を行っている事が多々あるが、上場企業は個人投資家を含めた株主が所有者であり、経営者のみが所有者ではない事を改めて認識する必要があるのかもしれない。(千)

 

独占禁止法とM&A

日本企業が成長の活路を求めて、海外進出する例は過去に比べたら格段に増えている。その上でM&Aは有効な手段となるが、国境をまたぐM&Aを行う場合にも独占禁止法に備えた対応策が必要である。

中国は独占禁止法の施工から2018年で10年を迎えたが、それは独占を防ぐ本来の目的からそれ、産業政策の道具に使われているとの批判がつきまとう。米国に関しても安全保障を理由に介入姿勢を鮮明にしており、海外M&Aにおいて不透明感が漂っている。

対応策の例としては大陽日酸が2018年に米プラクスエアの産業ガスの欧州事業を買収した際、米プラクスエアは独リンデと合併を進めており、その中でプラクスエアは欧州における独禁法審査の結果、欧州事業の一部切り離しを迫られていた。

それによって、大陽日酸は米プラクスエアの欧州事業を買収できた訳だが、日本企業が海外に成長の活路を求めて海外M&Aを行う際にも、今回の米プラクスエアのケースのように、独禁法審査に備えて事業の一部切り離し等も厭わない覚悟でM&Aを検討・実行していく必要があろう。

 日本企業には、まだまだ事業や子会社の売却に積極的ではない面が散見される。海外企業と比べた時に、M&Aへの認識や企業風土が根本的に違うかもしれないが、場合によっては、市場に大きな影響を及ぼす戦略的な買収や売却には、目的を達成するための柔軟な対応策が必要であると認識しておくべきだ。(千)

 

地方企業のM&Aが活発化

国内の地方企業におけるM&Aが活発化してきている。事業再編や合従連衡が増加し、今後更にM&Aが経営者にとってスタンダードになる事を期待したい。

日本経済新聞(2018年2月22日)によると、2017年の東北6県の企業が関わったM&Aや出資が前年比26%増の88件と過去2番目に多い水準になった。

その背景には、地方銀行等の収入がマイナス金利などによる利ざや縮小により厳しくなる中、出資先の株式売却益や仲介手数料収入を見込んだ積極的な事業活動がある。

静岡県内企業が関わった2017年のM&A件数は前年比60%増の55件と、過去最高の水準だった。販路拡大、新規事業創出、人材確保などを目的に企業が積極的に活用している。後継者難も事業再編を後押ししており、事業会社によるM&Aが目立つ(2018年2月28日 日経新聞)。

 一方、信用金庫によるM&A関連ビジネスへの参入も出始めている。浜松信用金庫は、高度人材の転職サービスを展開するビズリーチと提携、また長野信用金庫はM&A仲介サイトを運営するアストラッドと提携をした。そのアストラッドは秋田信用金庫とも業務提携を結んでいる。(千)